鳥獣害と闘う!

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(4/24日の農業新聞より転載)
鳥獣害対策の専門家らで組織する協議会が、地域で取り組むイノシシ被害対策をまとめた。被害は農地、農作物だけでなく、森林や生活圏と広範囲に及んでいると警告する。鳥獣害は農家だけの問題ではない。国民全体が危機感、問題意識を共有することが解決の一歩だ。日本農業新聞は2013年度キャンペーン「鳥獣害と闘う」を通じて、被害の実態、対策に迫っていく。
野生動物による農作物被害は、農水省のまとめでは11年度で面積10万3400ヘクタール、金額226億円だった。同省が調査を始めた1999年度は面積17万7300ヘクタール、金額210億円。面積は7万ヘクタール減ったが、金額は200億円前後と変わらない。
被害面積が減少しているにもかかわらず、むしろ農家の深刻度は増している。背景には、繰り返される野生動物による加害で農家の生産意欲が落ち、耕作放棄に追い込まれている現実がある。さらに1ヘクタール当たりの被害額が99年度は11万8000円だったが、11年度は21万9000円と大幅増。金額増に比例して農家に与える衝撃が大きくなっている。

地域で対策を実施する研究者や行政の担当者は、被害は氷山の一角だと指摘する。申告のない被害、潜在的に多いとみられる鹿による森林被害。近年は観光地の景観破壊、ダニやヤマビルを野生動物が媒介することで人への健康被害も出てきた。鳥獣被害は農家だけの問題から地域の問題へ顕在化してきた。
イノシシ対策をまとめた冊子では、まずその生態を知ることを説く。さらに、被害実態を明らかにして地域全体の問題として捉えるよう訴える。加害獣はイノシシに限らないとも指摘。地域で被害をもたらす野生動物の把握、被害が出る環境などを地図上で示し、地域の問題点を確認。地域の未来を予想しながら、捕獲だけに頼らない総合的な対策を推奨する。
鳥獣被害の深刻度が増す中、加害する主な鳥獣はカラスやスズメから鹿、イノシシ、猿に変わった。鹿などは生息数増に加え、生息域の拡大が深刻だ。アライグマやヌートリアなど外来生物の侵入も被害を大きくしている。

山間部の風景は変わりつつある。耕作放棄地の増加だけでなく、野生動物の侵入を防ぐために、山と道路や農場の境に防護柵が設けられている。いまや集落や農場を囲むように設置された柵の中で人が暮らしているようだ。

安倍晋三首相は環太平洋連携協定(TPP)交渉参加表明時、美しい田園風景を守る決意を示した。だが守るはずの美しい田園は、無機質な防護柵で自然と分断されている。

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